魅力の植物!自由研究

魅力あふれる植物のふしぎな生態をレポートします。 🌷ガーデニング・家庭菜園・草花と自然🌷

発熱する植物・ザゼンソウをサーモグラフィーカメラで観察しました

イントロ

落倉自然園のザゼンソウ・親海湿原・姫川原流(白馬村)

でザゼンソウを観察してきました。ハンディタイプのサーモグラフィーも持っていってそれの撮影もしましたのでレポートしたいと思います。

サーモグラフィーカメラ

機種:HIKMICRO E02 サーモグラフィーカメラ 240X240

アマゾンで2026年4月現在3万円前後の表示価格です。

これ、ザゼンソウの観察のために購入したのですが、それ以外の活用としては

  • 室内の暖房効率を上げるために冷気が入り込む部分を特定
  • 電気器具の発熱状況
  • 床暖房の配管ラインを可視化
  • 床を裸足で歩いた時の足跡追跡

床が足裏の体温で温まってフットプリントとしてしばらく残っているのでした。その画像は面白いのだけれど、ここでは省略します。

ザゼンソウ サーモグラフィーによる観察

発熱する植物 ザゼンソウ

ザゼンソウの発熱 サーモグラフィ

サーモグラフィーの結果から仏炎苞の中に鎮座する肉穂花序が強く発熱していることがわかりました。気温が5〜6℃の中、肉穂花序の温度が21.2℃もありました。その影響で仏炎苞の中や周囲までもが温められて赤く表示されていました。

次に、大部分の花粉が落ちてしまったザゼンソウを観察しました・・

発熱する植物 ザゼンソウ

これをサーモグラフィーで測定すると・・

ザゼンソウの発熱 サーモグラフィ

肉穂花序の温度は画像の中の最高温度と一致するので13.4℃という測定結果になりました。先ほどの株よりも低い温度で発熱していることになります。何が違ってその差が生まれたのでしょうか。

多くの花粉がこぼれ落ちて 花期終盤のザゼンソウ

この株は上の写真のように花粉の多くが落ちており雄性期の末期、すなわち花期の終わりと考えられます。このように、雄性期から花が終わる頃にかけては発熱能力が落ちている可能性があります。観察したのが一株だけだったので断言はできませんが。

発熱するザゼンソウと虫の関係

ザゼンソウと虫の関係

これは落倉自然園とは別場所で撮った過去の写真です。この日は霧雨が降っていました。そのため仏炎苞の中に張られたクモの巣に水滴が付着し、その存在を明示してくれていました。

寒い環境の中、ザゼンソウだけが暖かいので虫が集まってくると推測されます。それを狙ってクモは仏炎苞の中に巣を張るのでしょうね。

ザゼンソウが発熱する理由

まず第一に想像されるのはポリネーターを集めるために温度を上昇させるのではないかということ。そしてポリネーターへのシグナルとして匂い物質を効率的に発散させるために発熱するのではないかということ。

しかしザゼンソウは外気温の変化に関わらず肉穂花序の温度を20℃以上に1週間程度の間維持する能力を持っているとのこと。この1週間程度というのは雌しべが活動している期間に一致しているため、それを考慮に入れてまた別の発熱理由が推測されました。その中で花粉管の伸長と温度の関係が調べられ、花粉管の伸長に最適な温度が23℃と判明しました。

このことから、ザゼンソウが発熱する主な理由は寒冷期の中で正常な受粉をするためには23℃程度の温度が必要だからと考えられるようになりました。

発熱する機序

解糖系やTCAサイクルにより供給される電子はミトコンドリアに複数存在するNADH脱水素酵素を介してユビキノンに受け渡されます。シアン耐性呼吸酵素AOX)はそのユビキノンから電子を受け取り酸素を水に還元する働きをします。その際、プロトンはミトコンドリアの膜間腔に汲み出されないためエネルギーがATPに変換されずに直接熱となって放出されるという仕組みだそうです。

 

哺乳類の熱産生器官・褐色脂肪細胞との違い

以上のように植物の発熱器官と褐色脂肪細胞で共通している点としては、ミトコンドリアにおいてATP合成を経ずに直接熱を産生するということが挙げられます。しかし、その機序は異なっています。

  • ザゼンソウではAOXが関わることでプロトンの膜間腔への汲み出しが行われずATP産生無しで直接熱が産生される
  • 褐色脂肪細胞では脱共役タンパク質のUCP1がミトコンドリア内膜で活性化されるとプロトン濃度勾配を解消する際ATP産生ではなく直接熱が産生される

ミズバショウ サーモグラフィーによる観察

ザゼンソウに似た植物にミズバショウがあります。白馬の落倉自然園ではどちらも咲いていました。

ミズバショウ

このミズバショウをサーモグラフィーカメラで観察すると・・

ミズバショウ サーモグラフィー

このように、仏炎苞中に肉穂花序の存在が温度差として見ることはできました。しかし周囲の温度と比較すると、これは肉穂花序が発熱しているのではなく仏炎苞の温度が低いためだとわかります。

その理由として考えられるのは、蒸散による冷却効果?あるいは霧などで水分付着による気化熱の影響でしょうか。

このように、生息環境や生息時期、形が似ている2種なのに発熱に関しては全く異なるというのも興味深いと思いました。

まとめ

  1. 寒い環境で咲くザゼンソウは肉穂花序が発熱し花の最盛期では20℃以上にもなる
  2. 発熱は周囲にも影響し周囲の雪を溶かすこともできるほど
  3. 発熱するのは効率的な花粉管の伸長には23℃程度が必要で受粉効率を上げるためである
  4. ミトコンドリアでATP合成を経ずに直接熱を産生するのは褐色脂肪細胞と同じ
  5. しかし その機序は異なっておりザゼンソウではAOX(シアン耐性呼吸酵素)か関わる
  6. 褐色脂肪細胞ではUCP1という脱共役タンパク質が関わる
  7. 仏炎苞の中は暖かいので集まる虫を狙ってクモが巣を張ることがある
  8. 一方、ミズバショウの肉穂花序では発熱は見られなかった
  9. ミズバショウの苞は周囲より温度が低い傾向であった
  10. 蒸散による冷却効果?仏炎苞に付着した水分の気化熱の影響?

今後は・・

  1. フクジュソウが咲いた時の温度分布をサーモグラフィーで観察
  2. ハスの花も発熱するそうなのでその観察
  3. 他にも発熱する植物はないか調べる
  4. 蒸散と葉の温度の観察